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2026.9.8

採用でも効果的?「会計事務所のリモート勤務」を上手に使うには

田谷 信輔

採用でも効果的?「会計事務所のリモート勤務」を上手に使うには

コロナ禍をきっかけに、多くの会計事務所や税理士法人で導入が進んだリモート勤務体制。当初は「感染症対策としての一時的な措置」を捉えていた事務所も少なくありませんでした。しかし、実際にリモート勤務を経験したことで多くのスタッフたちが、その働き方から得られるメリットを実感。働き方の多様化にもマッチするリモート勤務は、今日も採用の現場で大きな「職場選びのポイント」であり続けています。

一方で業界を問わず、オフィス回帰を進める動きも。こうした中でリモート勤務制度を上手に採用につなげるには、どのような注意や準備が必要になってくるのでしょうか。リモート勤務を導入するメリット、そしてデメリットは。採用時に気を付けるべき点はどこか。当記事では、会計事務所におけるリモート勤務の現状から、その注意点までポイントを整理してみました。

目次

■定着した会計事務所のリモート勤務

(1)きっかけはコロナ禍

ロックダウンなどが発生し、社会全体が「人と人の接触」へ過剰に反応したコロナ禍。詳細な数値が残っている東京商工会議所の調査では、緊急事態宣言の発布を受けて2020年5月~6月にはテレワークの導入率は67.3%まで急上昇。同年3月時点の26.0%から、わずか数カ月で41.3%も上昇しました。

これらの数値はあくまで都内企業の一部を対象としたもの。しかし日本全国で見ても、コロナ禍のピーク期にはテレワークの導入企業は6~7割に達し、リモート勤務は一気に社会へ普及したと考えられています。

<参考>
テレワークの実施状況に関する緊急アンケート調査結果(東京商工会議所)
https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1022366&utm_source=chatgpt.com
→この数値は東京商工会議所の会員企業を対象とした調査です

(2)オフィス回帰の気運

同じ東京商工会議所の調査で見てみると、緊急事態宣言の解除などに伴ってテレワークの導入率は徐々に低下。2021年11月には31.2%まで減少しています。その後、2022年以降には欧米を中心にReturn to Officeが大きな潮流として動きを見せ、それに影響を受けた日本企業の中にも同調する企業が発生。「社員間のコミュニケーション課題」や「会社への帰属意識」「新入社員や若手社員の育成問題」などを課題として、出社勤務に戻す会社が増えました。

しかし、ここで大きな問題となったのは、会社側と従業員側との間に生じた理想のギャップです。働く側としては必ずしもオフィスに戻りたいとする人ばかりでなく、一部では「高い給与よりも、リモート勤務の有無を重視する」という選択も発生してしまいました。

(3)会計事務所におけるリモートワークの実態

では現在、リモートワークの導入状況はどれくらいなのでしょうか。総務省が発表している「情報通信白書 令和8年版」によれば、令和7年通信利用動向調査の結果テレワークを導入している企業は全体で50.1%。令和3年以来、ほぼ横ばいの状況が続いているようです。また、業界ごとの細かな導入率の数値は同じく「情報通信白書」の令和3年版まで遡りますが、税務会計業界が含まれる「学術研修、専門・技術サービス業」の平均は43.2%という数字。半数弱がリモート勤務を利用していると出ています。この数値は、日ごろ会計事務所や税理士法人の採用活動をお手伝いしている私としても、リアルな数字ではないかと思いました。

「ちょっとした相談も気軽にできるオフィス勤務がいい」という声。「移動時間などのロスが減って働きやすい」という声。スタッフの間から生じる声を拾い上げながら、事務所ごとにリモート勤務との付き合い方を取捨選択している。これが、税務会計業界におけるリモート勤務の現在地。そしてその割合は、この数年大きな変化はないと感じています。

<参考>
情報通信白書令和8年版(総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/r08.html

(4)「働けること」を知ってしまった求職者たち

税務会計業界に、リモート勤務が浸透したのは他業界に比べて少し遅めだったと記憶しています。それは、顧問先の重要な数字を扱う専門性と秘匿性の高い仕事であるため、慎重な対応になっているのだと感じていました。「税務の世界では、リモートはできない」という意見を、当時数多く聞いたことを覚えています。

しかし社会からの求めに応じて、工夫を重ねて導入したリモート勤務は、思った以上に「使える」ことがわかってしまったわけです。

それまでも「女性の社会進出」や「高齢化による労働力の減少」を課題とするとき、働き方の多様化へどのように対応するかは話題となりました。しかしこのコロナ禍、そしてリモート勤務の実用性を知るに至り、一気に「多様化への対応」という意識は前に進んだように思われます。一度知った便利さや快適さを、労働者や求職者は忘れることはできなくなっているのです。

■リモート勤務は「ウチの事務所でもできる」のか?

(1)採用の現場で、効果を発揮する「リモート勤務可」の表記

私は会計業界専門・採用コンサルタントとして、税務会計・経理財務部門の採用支援媒体で取材をしてきました。採用の現場で採用担当の方から「ウチはリモートできますよ」と聞くと、「求人原稿内でアピールできる項目が一つ増えたな」と感じます。

リモート勤務に魅力を感じるのは、若手ばかりではありません。育児や介護などの事情を抱えた人材。体調上の理由で外出が難しいが、十分に働ける人材。あるいはそうした特別な理由がなくても、単純にリモート勤務の快適さを知り、それを転職時の条件にしている人材。もっと言えば、特に思い入れはなくても「リモート勤務がないよりは、あった方が快適そう」というライト層も含めれば、年齢性別を問わず多くの方々からリモート勤務は魅力的な労働環境と見られています。

私の知人の中には「今までウチは週1でもリモート勤務があったから我慢もしてきたけど、なくなったから辞める」という人も……。逆に言えば彼は、リモート勤務さえ残っていれば転職をしなかったということ。それほどに魅力を感じる人もいる、という証だなと感じたものです。

(2)重要なのは「管理と監督」

リモート勤務は導入できるのか。それはすなわち、「税務会計の仕事は本当に出社しないとできない仕事なのか」という問いを生むでしょう。例えば、税理士法38条の「守秘義務」の項目は、リモート勤務でも当然適用されます。重大な情報を取り扱う仕事だからこそ、「情報の管理」や「従業員の監督義務」は欠かせません。

しかし一方で、税理士法上で「従業員が自宅で作業すること」自体は禁止されていません。国税庁も使用人等への監督について、必ずしも対面でなくともオンライン技術等を活用し、適切に管理できれば問題ないとしているようです。また近年は特に税務会計ツールの各社における開発と改善が日進月歩で進んでおり、場所を問わずにオフィスと同じレベルの仕事ができる環境整備も可能になりました。要は、所内で行っていた情報管理やスタッフの監督などを、オンライン環境でも同じように実行できるのか。そこさえクリアできれば、リモート勤務の導入は可能であると考えていいでしょう。

■会計事務所におけるリモート勤務のメリット&デメリットは?

(1)リモート勤務の代表的なメリット

・採用競争力を高めることができる
→税理士試験の受験生なども、通勤時間の削減で勉強時間を確保できます

・育児や介護など、家庭の事情による退社を防げる
→ライフイベントによる環境の変化にも、リモートでなら対応できる可能性が高まります

・ワークライフバランスの確保に使える
→通勤時間を、そのまま家族との時間や趣味の時間、自分のために利用できます

・出社できない状況でも対応できるようになる
→近年増えている水害や地震、交通機関のトラブルがあっても仕事できるようになります

(2)リモート勤務の代表的なデメリット

・所内コミュニケーションが減少する
→オンライン会議やチャットなどのコミュニケーションツールでカバーはできますが、直接的なやり取りは対面には及びません

・スタッフの管理や業務進捗の確認が難しくなる
→業務の進行状況や中身について、チェック体制を構築することが不可欠になります

・若手や新人の育成が難しくなる
→場合によっては孤立感を感じてしまうことも。また「見て覚える」機会も減るでしょう

・情報漏洩のリスクが高まる
→システム的なフォローはできても、貸与PCの紛失などの危険性があります

(3)近年増えてきた「フルリモート勤務」

フルリモート勤務の場合、採用ターゲットの「住所や居場所」はまさに不問。日本全国にいる求職者・転職希望者が採用ターゲットとなります。場所に縛られず、スキルや経験などに絞った採用ができるため、非常に効果的です。また同時に、顧問先自体も全国から対応できるようになるため、売上向上でも効果を発揮できるでしょう。

しかし一方で、人材育成や人材&業務の管理、情報漏洩の防止対策やコミュニケーション不足など、メリット共にデメリットも拡大します。十分な準備と、都度システムを見直す慎重さが求められます。

■リモート勤務で人材採用!その注意点は?

(1)ルールを細かく設定しつつ、皆で都度改善を

リモート勤務に関する、細かなルールを設定することが第一歩です。例えば、一例として考えてみると…

・正社員のリモート勤務は、週内で何日間できるのか
・パートスタッフも利用できる制度なのか
・リモートで勤務する際の必要書類の持ち出しはできるのか、それともデジタルデータのみの使用に限るのか
・出退勤の管理はどうするか。早退や中抜けは可能なのか
・上司や同僚への報連相の方法や頻度は
・コミュニケーションは、どのようなツールを使うか など

管理する側も、リモートで業務に携わるスタッフ側も、実行した際に迷いや不安が生じにくいルールを設定し、共有することが肝要です。また、制度の導入直後などは発生するイレギュラーや想定外を機会として、都度制度を見直すことも大事になるでしょう。「最初にこう決めたから」も大事ですが、運用してみて発生する不都合や不満は、皆で共有しながら解消していけるといいですね。

(2)リモート勤務に「向いている人」とは

事務所や職場ごとに風土やタイプがあるため、「絶対にこういう人材がいい」と断言するのは難しいでしょう。しかしリモート勤務に適しているかどうか、という観点に立てばいくつかのタイプが想像できます。

・報告や連絡、相談を適切に行いながら業務を進められる方
・指示待ちばかりでなく、自己管理して業務を進められる方
・情報の取り扱いを慎重にできる方
・自分の都合ばかりでなく、同僚やお客様のことを考えて行動できる方

こうした方々であれば、リモート勤務という便利な環境を得ても心配はなさそうです。面接の短い時間内でこうした人物像をすべて把握するのは難しいため、研修期間や勤務を経て徐々に把握していくといいでしょう。

ここでも大事になるのは、最初に定めた「リモート勤務のルール」です。リモート勤務と言っても、こうしたルールに基づいて行ってもらうけど、大丈夫だろうか?その確認が取れて共有できるのは、お互いにとって安心と信頼に結びつくはずです。

(3)他事務所は、どんな運用ルールを定めているのか?

よく聞く対応としては、「リモート勤務の利用は試用期間明けから」。中には「業務や所内ルールに慣れてから」という形で日数を明確にせず、上長や代表の許可が得られてから利用できるようにする、という事務所もあります。

また、「リモート勤務は週●日程度」と日数を定めることも多いようです。逆に「週1日以上は出社勤務をする」といったように出社日数を定めるケースも散見されます。

さらに、リモート勤務日も朝礼はオンラインで顔を合わせるなど、孤立しない工夫をしている職場もあるようです。出社時は会議室への移動などが煩わしく感じるミーティングも、オンラインであれば「今、そっちの様子はどう?」といった雑談が交わされることも。コミュニケーションの良い機会となるケースも見られるようです。

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■まとめ

ご紹介したように、リモート勤務制度の導入は人材採用において大きな効果を発揮する可能性があります。しかし、採用のために導入した制度が、その後の人材定着や仕事の進め方、業務クオリティでデメリットになってしまっては意味がありません。本当に、自分たちの職場でリモート勤務は導入できるのか。逆に、できるのに「できない」と思い込んでしまってはいないか。導入したとして、業務のクオリティや安全性を守れる体制がつくれるのか。働き方の面で大きな変化になるからこそ、丁寧な検討と準備が大切になってきます。

貴社と貴社のスタッフの皆さん、そしてこれから出会うスタッフ候補の皆さんにとって、良き体制が築かれることを祈っております。

執筆者プロフィール

田谷 信輔

20年超、税務会計・経理財務部門の採用支援媒体にて、取材ライター&コンテンツ制作者として従事。2500件以上の採用に悩む経営者・採用担当者にインタビューを実施。