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2026.7.10

人材はなぜ辞めてしまうのか?税理士事務所・会計事務所が知っておきたい、退職を防ぐ3つのポイント

田谷 信輔

人材はなぜ辞めてしまうのか?税理士事務所・会計事務所が知っておきたい、退職を防ぐ3つのポイント

採用コストの上昇や、採用した人材の定着の難しさ。労働力人口の不足が叫ばれる現代において、採用と定着は常に経営者の悩みとして頭から離れることはありません。

税理士事務所・会計事務所は、有資格者や実務経験者の採用が特に難しい業種のひとつです。だからこそ、今いるスタッフにいかに長く活躍してもらうかは、事務所経営における重要なテーマといえるでしょう。職員の離職を防ぐためには、どんなポイントに気を付けるべきなのか。今回は「採用と定着」に関するポイントを考えてみたいと思います。

目次

■人手不足は着々と進んでいる

自社の採用状況や人材の定着状況はわかっても、他社の状況はつかみにくいものです。そこで、厚生労働省が調査・発表している「雇用動向調査」で見てみましょう。ここでは2025年8月に発表された、「2024年度雇用動向調査」を読み解いてみます。

この年の調査によると、2024年度の入職者数(会社・組織に入社した人数)は、7473万7000人でした。対して、離職者数(会社・組織を退社した人数)はといえば7195万3000人となっています。この数値を、それぞれ2024年年初の「常用労働者数(その時点で、すでに社員として勤務していた人数)」に対する割合としてみてみると、入職率が14.8%。対して離職率は14.2%となりました。入職率が0.6%上回っており、これはすなわち退職者よりも入社した人数の方が多い、ということになります。これだけを見れば、労働人口は増えているとみることもできるかもしれません。

しかし、この入職率と離職率の数値を、2023年度と比較すると状況の難しさがわかってきます。2023年の入職率は16.4%、離職率は15.4%。入職率から離職率を引いた「入職超過率」で2024年度と2023年度を比較すると、0.4%縮小してしまっていることがわかります。

昨今、あらゆる業界・業種で人手不足は叫ばれていますが、実際の調査数値で見ても一目瞭然。採用と人材定着の困難さは、自社の課題に止まらず、社会全体の課題となっていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

税理士業界・会計業界も、この傾向と無縁ではありません。税理士試験の受験者数や登録者数の伸び悩み、資格取得までの時間的コストなどを背景に、有資格者や実務経験者の獲得競争は年々激しさを増しています。一人のスタッフが辞めることによる業務への影響が大きい点も、事務所経営ならではの悩みといえるでしょう。

【参照】
令和6年 雇用動向調査の概況(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html

■なぜ定着率は低下しているのか?~理由1/人手不足による転職市場の活性化~

労働人口の減少に伴い、採用市場において「採用側」の苦戦が顕著になってきました。採用活動の母数を形成し、より良い人材を採用するために、自然と採用市場における給与や待遇などの諸条件は、企業同士の競争が激化しました。採用市場には好条件の求人が増加し、これにより労働者としては「転職」のハードルが大きく下がることになりました。

税理士・会計業界においても、人材紹介会社やスカウトサービスを通じて、有資格者・実務経験者に直接アプローチする採用手法が一般的になりました。「即戦力人材」を求める事務所同士の引き抜き合いともいえる状況が生まれており、経験を積んだスタッフほど転職の選択肢を持ちやすくなっていると言えます。

■なぜ定着率は低下しているのか?~理由2/価値観や働き方の変化に伴う離職喚起~

労働者自身の働き方に関する意識や価値観、そして企業側の雇用意識の変化にも理由は見つけられます。終身雇用や年功序列といった旧来の働き方に対する考え方も変わりました。「同じ会社に長く勤めること」自体の価値が、特に若い世代の人材にとって急速に下がっています。

また働く環境に対する希望や求めることも大きく変化したことは重要なポイントです。給与だけでなく、働きやすい労働環境や成長できる仕事・機会の有無、仕事から得られるやりがいや充実感、社会貢献度など、それぞれに多彩な観点から仕事を見る傾向が高まってきました。

実際に仕事をしてみて不満や疑問が生じたら、転職すればいい。新卒でも最初から「転職」がアクションの選択肢に入っているため、自然と定着率の低下につながっているようです。

これは事務所スタッフも例外ではありません。「資格を取っても、この事務所で評価されるのか」「専門性を高めても、単純な記帳・入力作業ばかりで成長を実感できない」といった不満は、離職の引き金になりやすいポイントです。特に有資格者や試験合格を目指すスタッフほど、自身のキャリア形成に敏感である傾向があります。

■定着率を上げるために!取り組んでみてほしい3つのポイント

こうした背景を受けて、取り組んでみていただきたい「定着率を上げる3つのポイント」をご紹介します。

(1)仕事で得られる経験と成長に満足度を高める

近年は、「残業をなくし、限りなくホワイトな環境に置いたのに退職された」というケースも増えています。足りなかったのは、職員に「ここで働くと成長できる」「仕事に充実感を感じる」と思ってもらえる機会だったのではないでしょうか。

業務を通じて得られる経験により、自身のスキルが磨かれ、キャリアが切り拓かれている。そうした実感を得られるような挑戦を与えることが、仕事や環境への満足感につながっていきます。結果として前向きに成長を続けてくれる職員は長く勤務してくれるようになるでしょう。職員本人はもちろん、会社・組織にとってもメリットの大きな還元が待っています。

税理士事務所・会計事務所の現場で、この考え方を応用してみましょう。例えば、記帳代行や入力業務だけで終わらせず、税務相談やコンサルティング業務への同席を促してみる。あるいは資格取得支援やクラウド会計・DXツールの活用機会など、専門性を高めるステップを用意することも有効的でしょう。業務や学びの機会を設けることで、「ここで働き続ければ、税理士・会計のプロとして成長を続けられる」という実感を提供する。このことが、定着率を高める鍵になるでしょう。

(2)環境、評価及び業務負担に対する納得感を高める

上記に加えて重要になるのが、働く環境への納得感です。成長を感じられる、満足感の高い仕事に出会えても、残業続きで疲労が蓄積したり、貢献に対する評価が実感できなかったりする環境にあっては、新人に限らずとも疲弊してしまうものです。

業務に対する評価基準を明確にし、その基準に応じた給与や待遇を適切に設定することが重要です。あわせて、自身に不足している能力や、どのようなスキルを身に付ければより高い評価につながるのかを明示する必要があります。さらに、次の段階において求められる役割やミッションを明確にすることで、不安や疑問の解消につながり、安定して高いパフォーマンスの発揮が期待されます。

例えば税務会計の現場ではしばしば、確定申告や年末調整などの繁忙期に業務量が偏る傾向があります。そのため、まず業務量が特定の職員に負担が集中していないかを可視化。それと同時に量だけでなく「職員自身の資格取得の状況」や「クライアント対応の成果」といった面も考慮する。こうして質量の両面から職員の貢献を分析し、評価に反映することが肝要です。こうした取り組みが、職員の納得感につながり、より前向きに業務へ取り組める原動力となるはずです。

(3)日々の「会話」が離職防止に直結する

価値観の変化は、世代間や労働市場において大きくなっています。こうした状況にもかかわらず、従業員と経営者・管理部門・上司との間でコミュニケーションが不足すれば、認識のずれが生じることは避けられません。価値観の多様化が一般的となった現在、日常的なコミュニケーションの強化は不可欠です。

定期的な面談の実施に加え、日々の業務や短時間のやり取りの中でも気軽に相談できる環境を整えることが重要です。このような職場の雰囲気を醸成することで、従業員の些細な変化や心情に気づく可能性が高まります。これは、離職の防止につながる、日常的かつ実行可能な取組です。

「クライアント対応に追われ、職員との対話の時間を確保できていない」。取材などでお話しすると、こうした悩みに直面している所長や経営陣の方も少なくありません。一方で所長や代表との距離の近さ、いつでも相談できる身近な存在と感じられることは、職員インタビューなどでは「事務所の魅力」としてよく伺う内容です。

だからこそ多忙の中でも、職員との会話の機会を意図的に設けることは、人材定着の面でも重要な意味を持ちます。例えば、繁忙期終了後の振り返り面談の実施してみる。あるいは職員からの定期的な業務報告の機会を、所長側からも近況などを聞く声かけの機会にする、など。意識的にコミュニケーションの機会を設けてみることをおすすめします。

〈参考記事〉
税理士法人に転職するメリットは?未経験者に向けた完全ガイド

https://career.jusnet.co.jp/tax/tax_04_46.php

会計事務所への転職で後悔しないために知るべきこと|労働環境・仕事内容・給与
https://tax.jusnet.co.jp/contents/detail/tax_01_06

■まとめ

離職の主な理由として、「人間関係」が挙げられることは、現在においても変わりません。価値観が多様化する現代においては、個々人の考え方の違いが広がっており、その調整は一層難しくなっています。しかし、企業や事務所における定着率の低下は、単に特定の世代の特性に帰するべき問題ではありません。働くことに対する価値観の変化や転職市場の活性化により、「自分に合った職場環境を選択する」という行動が一般化した結果といえます。

だからこそ企業側には、従来のように制度や待遇だけで職員を引き留めようとするのではなく、「この会社・事務所で働き続けたい」と感じてもらえる環境づくりが求められています。職員一人ひとりの声に向き合い、働く意味や将来像を共有できる組織ほど、人材は定着しやすくなるものです。人手不足が進む時代だからこそ、採用力だけでなく「辞めない組織づくり」が事務所経営の大きな課題になっているのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

田谷 信輔

20年超、税務会計・経理財務部門の採用支援媒体にて、取材ライター&コンテンツ制作者として従事。2500件以上の採用に悩む経営者・採用担当者にインタビューを実施。