「バランスシート上で『役員借入』がある場合、金融機関は『資本』で見てくれますよね?」とよく質問を受けます。その質問への答えは「必ず見なすとは限らない」になります。では、どのような条件があれば『資本』で見なしてくれるのか、見なせないのはどういった場合か。今回は『役員借入』に焦点を当ててお話をします。
2026.8.21
「バランスシート上で『役員借入』がある場合、金融機関は『資本』で見てくれますよね?」とよく質問を受けます。その質問への答えは「必ず見なすとは限らない」になります。では、どのような条件があれば『資本』で見なしてくれるのか、見なせないのはどういった場合か。今回は『役員借入』に焦点を当ててお話をします。
目次
そもそも『資本』で見なすとはどういった意味なのか。まずはここから考えてみる必要があります。『資本』とは返済義務がないお金のことです。つまり、「資本でみなす」=「返済を急がない」ことになります。
日本政策金融公庫に「資本性劣後ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)」という制度があります。この商品はあくまで「長期借入」ですが、返済期間は5年1ヶ月から最長20年まで選択でき、いずれも期限一括返済です。返済期間中は元本の返済義務がないことから『資本』に近い借入となり、公庫の公式ページでも「本制度による債務は、金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができる」と明記されています。また、公庫が「劣後ローン」の証明書を発行することで、他の金融機関も資本で見なすことができます。
話を『役員借入』に戻しますと、『役員借入』も『資本』で見なしてもらうためには、公庫の劣後ローンと同じ理屈が必要です。つまり、
●他の借入金よりも返済を急がないこと
●返済を急がない証明が必要なこと
この2点をクリアすることが条件になります。では、この2点をクリアするためには、
●役員借入の貸し手の資産が潤沢であること
●役員借入の貸し手の「確定申告書」を提出していること
この2点が必要になります。
私が銀行員時代、金融庁検査の際にはよく取引先の経営者の確定申告書をもらいに走り回っていた記憶があります。これは何を目的にしているかというと「経営者と会社との一体査定」のためです。「一体査定」とは、経営者個人の資産内容を会社の財務内容にあわせて考慮する考え方のことです。
この考え方は、金融庁が公表している「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」にも明記されています。同資料には、代表者が会社の実質債務超過相当額を上回る個人資産を持ち、その資産を会社に提供する意思があり、かつ実際に代表者の資産から返済が行われている状況であれば、法人・個人を一体として見て、より上位の債務者区分として扱いうる、という趣旨の事例が示されています。逆に言えば、こうした一体査定を成立させるためには、代表者の資産・負債の状況と収入のエビデンス(確定申告書)を確認する必要がある、ということです。
つまり、『役員借入』を『資本』で見なすためには、この一体査定と同様のプロセスをたどる必要があります。
●経営者の資産が潤沢にあり、役員借入の返済は全く急がないことが証明されること
このためには「確定申告書」が必要なのです。
金融機関の担当者から確定申告書を求められても、「自分個人の情報を丸裸にされたくない」という理由から提出を拒む方もいますが、拒んでいると「経営者との一体査定」ができず、かえって会社の借入にマイナスに働きます。あまり情報開示を拒みすぎると、自身の首を絞めることにもなりますので、確定申告書を求められたら「どういった理由で必要なのか」をきちんと確認したうえで対応することをお勧めします。
なお、この「金融検査マニュアル」自体は2019年に金融庁によって正式には廃止されていますが、「別冊〔中小企業融資編〕」は現在も金融庁のサイトで参考資料として公開されており、実務上、多くの金融機関の自己査定の考え方のよりどころとして参照され続けています。
※参考出典
日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/57_t.html
金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」
https://www.fsa.go.jp/manual/manualj/manual_yokin/bessatu/kensa01.html