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2026.6.19

税理士なら知っておきたい『銀行融資』の知識【No.17】 融資取引の根幹たる「銀行取引約定書」に目を通したことありますか?

徳永 貴則

税理士なら知っておきたい『銀行融資』の知識【No.17】 融資取引の根幹たる「銀行取引約定書」に目を通したことありますか?

銀行から初めて融資を受ける際に取り交わす「銀行取引約定書」。融資取引のある方なら手元に必ずあるはずですが、実際に読んだことがある方は少ないのではないでしょうか。

この約定書には、融資取引における重要な約束事がまとめて定められており、知らずにいると思わぬリスクを抱えることになります。今回は特に押さえておきたいポイントに絞って解説します。

■銀行取引約定書とは何か

銀行取引約定書とは、融資取引全般に適用される「普遍的な約束事」を定めた基本契約書です。融資のたびに一から契約を交わす手間を省くために、銀行と企業の間で最初に一度だけ取り交わします。

実際に融資を受ける際には、これとは別に「金銭消費貸借契約証書」を締結し、融資金額・返済方法・返済期日・利息・連帯保証人といった個別条件を定めます。

約定書の書式は各金融機関が独自に定めていますが、2000年以前に全国銀行協会が作成したひな型をベースにしている銀行が多く、期限の利益の喪失条項など基本的な内容は各行で概ね共通しています。

なお、約定書の文言そのものは、契約前・後を問わず変更が認められないのが原則です。ただし、個別の「金銭消費貸借契約証書」については、銀行との交渉により条件変更の余地があります。

■特に目を通しておくべき4つのポイント

約定書の中で、債務者に大きく関わる項目は次の4つです。

  1. 「期限の利益」の喪失事項
  2. 利息・遅延損害金
  3. 相殺・払い戻しの充当
  4. 報告・調査義務

それぞれについて詳しく説明します。

(1)期限の利益の喪失 ― 最も注意が必要な条項

「期限の利益」とは、たとえば5年返済の借入であれば、その5年間は契約どおり分割返済を続けることで時間的な猶予を得られるという、債務者にとっての利益のことです。

しかし約定書に違反した場合、この期限の利益を失い、残りの借入金を一括返済するよう求められることがあります。喪失事由には「当然喪失」と「請求喪失」の2種類があります。

【当然喪失】

以下に該当した時点で、自動的に期限の利益を失います。

  • 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があったとき
  • 手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けたとき
  • 預金その他の銀行に対する債権について、仮差押え・保全差押え・差押えの命令または通知が発送されたとき
  • 企業の所在が銀行に不明になったとき

【請求喪失】

銀行から通知・催告を受けた場合に期限の利益を失います。返済が遅延した場合や、担保の滅失・毀損・価値の著しい低下があった場合などが該当します。

ここで特に注意が必要なのが「差し押さえ」です。消費税・法人税・社会保険料などの支払いが滞り、預金口座が差し押さえられた場合、原則として期限の利益を喪失し、借入金の一括返済を求められます。

実務上、銀行がすぐに杓子定規な対応をすることは少ないですが、差し押さえの状態を放置すると一括返済を求められるリスクが高まります。近年は年金事務所の徴収姿勢が以前より強硬になっていますので、支払いが困難な場合は放置せず、早期に分割交渉の場に出ることが重要です。

(2)利息・遅延損害金 ― 金利が引き上げられるのはどんなときか

銀行が金利を引き上げるパターンは主に2つあります。

【市場金利への連動による引き上げ】

短期プライムレートやTIBOR(東京銀行間取引金利)などの市場金利に連動した融資を受けている場合、市場金利の変化に応じて自動的に借入金利も変動します。これは当初の契約条件であるため、基本的に交渉の余地はありません。

【信用力の変化による交渉での引き上げ】

約定書には、債務者の財務状況の変化や担保価値の増減など、銀行の債権保全状況に変動が生じた場合、双方が金利条件の変更について協議を求めることができると定められています。赤字が続いたり、キャッシュフローの悪化傾向が見られる場合に、従来より高い金利を提示されるのはこの条項に基づくものです。

なお、2024年以降、日本銀行の利上げを受けて各金融機関が短期プライムレートを相次いで引き上げています。主要行の短期プライムレートはマイナス金利解除前の1.475%から2026年6月の日銀政策金利引き上げにより、じきに2.375%へと引き上げられます。

変動金利型の融資を受けている企業は実際に金利負担が増加しています。長らく続いた「金利ゼロの時代」が終わりつつあるいま、市場金利連動型の借入条件は以前にも増して慎重に確認する必要があります。

(3)相殺・充当 ― 期限の利益を失うと預金口座がロックされる

返済が行われない場合や期限の利益を喪失した場合、銀行は債務者の預金口座をロックしたうえで、預金と借入金を相殺することができます。約定書にはこの権利が明記されており、銀行は事前通知なく預金の払い戻しを行い、借入金の弁済に充当することも認められています。

前述の差し押さえが発生した場合も同様です。税務署や年金事務所による預金差し押さえがあると、銀行は即座に相殺手続きに入ることがあります。預金が突然引き出せなくなるという事態は、事業の継続に深刻な影響を与えますので、差し押さえに至る前の早期対応が不可欠です。

(4)報告・調査義務 ― 情報開示は義務である

約定書には、決算書・試算表などの財務情報を銀行に開示する義務が定められています。これは「お願い」ではなく契約上の義務です。

情報開示を怠ると銀行との信頼関係が損なわれるだけでなく、請求喪失事由に該当する可能性もあります。定期的な情報提供を通じて銀行との良好な関係を維持することが、融資を継続的に受けるうえでの基本姿勢です。

■まとめ

銀行取引約定書は、融資取引全体のルールを定めた根幹の契約書です。内容を知らないまま署名していても、法的な拘束力は同じです。

  • 期限の利益の喪失は、差し押さえや支払い停止で突然発生する
  • 市場金利連動型の借入は、日銀の利上げ局面では金利上昇リスクが現実のものとなる
  • 財務悪化時には交渉で金利を引き上げられる可能性がある
  • 期限の利益喪失時には預金口座がロックされ、相殺される
  • 決算書・試算表の提出は義務であり、情報開示は信頼維持の基本

手元にある約定書を、一度じっくり読み返してみてください。

執筆者プロフィール

徳永 貴則

平成8年に当時の大和銀行(現りそな銀行)に入行。都心店舗を中心に法人融資業務を主担当し、本部の融資審査セクションでも業務を経験。2000社ほどの銀行融資に携わった経験を生かして、株式会社スペースワンを立ち上げ独立。多くの銀行融資コンサルティングのみならず、事業再生や経営改善のアドバイスを行っている。